albatros blog

広田修の書評とエッセイ

フーケー『水妖記』

 

 人間と妖精との間の恋愛悲劇。ドイツでは「若きヴェルターの悩み」と同じくらいよく読まれている古典だそうである。騎士は水の精と恋に落ち結婚するが、相手の素性などがわかるにつれて相手に対して恐怖を抱き、最終的にはほかの女性とともに暮らすことを選んでしまう。

 だがこれはある意味恋愛や結婚というものを戯画化していないだろうか。恋愛や結婚において、男性と女性は異なるものである。お互いに理解しえないところもあるし、お互いに愛情だけでなく負の感情も抱くだろう。このような、恋愛における互いにひかれあいながらそれでも互いに理解しあえない状況や、互いに負の感情を抱いてしまう状況、それは誇大化すれば相手が妖精か何かになってしまったかのようである。

 この小説は一種の奇譚や悲劇としても読めるが、それ以上に私には、人間同士の恋愛をどこかカリカチュアライズしたもののように思えてならない。