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広田修の書評とエッセイ

オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』

 

昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

昼の家、夜の家 (エクス・リブリス)

 

  ポーランドの国境付近の町を多面的・多角的に断章形式で描いている。主人公と同居人のR、隣人の老婆マルタを中心に、様々な人たちの人生が断章的に描かれていく。この小説においてキノコはとても重要だ。それは主人公の在り方でもあるし、この小説の世界観をなすものでもある。キノコという、普通の植物のように生を謳歌するのではなく常に死を食らい死の中でひっそりと生長するもの。老婆マルタもキノコ的であるし、この国境の町もこの小説に登場する人物も常に死と隣り合わせであり死と共に生きており、キノコ的である。

 登場人物の人生をなぞる小説が円筒的だとするならば、この小説は様々な方角から楔のような光を当ててくる犀利で複雑な小説である。主人公の人生から発される光が主人公の進行に合わせて世界を円筒的に照らしていくのではなく、いつも思わぬ方角から鋭く深く街をえぐっていくのがこの小説だ。断章的であるということはそのような小説の光の当て方を生み出す。哲学的で鋭い考察も多く、なかなか刺激的だ。