albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ジュリアン・グラック『アルゴールの城にて』

 

  ジュリアン・グラックのこの小説は、さながら一つの交響曲のように華やかに奏でられていく。美しい女性であったり楽しい会話であったり恋の気持ちや死などアルゴールの古城で起きる出来事が、独特の複雑な文体で大仰に、読む者の感情を刺激するように書かれる。感情に強く訴えるものであることと、複雑で繊細な構造を持つものであること、これがこの小説を交響曲のように仕立て上げている。

 それゆえ、この小説は内容より形式が重要であり、形式によって華麗に積み立てられた壮麗な建築物を楽しむようにできている。ここでは小説の意味内容というよりは小説の構成が重要なのであって、それがいかに緻密に破綻なく出来上がっているか、旋律は美しく和音に不備はないか、そういうことが問われている。グラックは小説を音楽的に作ることについてこの小説において大きな成功を収めていると思う。実際、読後感はまさにクラシック音楽の壮麗な一楽章を聴いた後のようであった。