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広田修の書評とエッセイ

アントニオ・タブッキ『供述によるとペレイラは…』

 

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

 

  この小説では主人公のペレイラが滑稽に描かれている。冴えない中年のおじさんで見た目もパッとしなければ心臓の病気で苦しんでいる。一応新聞社の文芸部長だがそれほど仕事をかっこよくやるタイプでもない。そのペレイラの苦しげで滑稽な日常が描かれていてコミカルな空間を作り出している。

 だが、そんなペレイラの下に弟子入りしてきた新米が、ペレイラを包む空間の性質を徐々に変えていく。新米は政治活動に従事しており、恋人と共にペレイラを政治的な活動に巻き込んでいく。ポルトガル独裁政権下、ヒトラーオーストリアを併合したという政治状況におけるポリティカルな空間に小説は推移していく。

 この、コミカルな小説空間からポリティカルな小説空間への移行、コミカルな空間とポリティカルな空間が併存しながらも、新米を触媒としながら小説空間が変質していく手際が鮮やかである。触媒を介在させながら小説空間を遷移していくという技法はスリルに富んでいて面白い。