albatros blog

広田修の書評とエッセイ

2023年に読んだ本ベスト10冊

2023年に読んだ本の中でよかったものを紹介します。

 

1.シドニー・W・ミンツ『甘さと権力』

 砂糖をめぐる歴史人類学。時間と空間のスケールが非常に大きい。工業化がサトウキビプランテーションで発達したという発見。これだけ完成度が高く緻密な作品は稀にしか見ない。

2.閻連科『四書』

 知識人たちを強制労働させた歴史の暗部をもとに書かれた本。これほど綿密に多方面に目配りして体制批判をした本はなかなかない。現代の神話であり、現代の古典である。

3.筒井清輝『人権と国家』

 人権と国家という相対立するものが歴史的にどう絡まってきたかを重厚に考察している。初めは大義名分として使われていた人権がいつの間にか市民権を獲得し国家を脅かすに至る過程を描いている。

4.嘉戸一将『法の近代』

 法とは何か、何が権力と暴力を分かつかについて、重厚かつダイナミックに議論を展開。新書でこのレベルの議論が読めるとは有り難い。

5.チェノウェス『市民的抵抗』

 非暴力的抵抗が社会を変える上で重要だとする古典的著作。国民の3.5%が動けば社会が変わるということを提唱したことで有名。

6.村田沙耶香『タダイマトビラ』

 「愛情の流通」こそが人間が人間として生きていくうえで不可欠なのではないかと思わせる小説。愛情の流通から疎外された人間は人間からも疎外される。

7.矢野・佐々木『絵本のなかの動物はなぜ一列に歩いているか』

 目から鱗が落ちる空間の絵本学。絵本の基本にある根本原理を鮮やかに提示し、絵本の見方を一新する驚愕の一冊。

8.ナンシー・フレイザー『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』

 資本主義の基本的な構造としての「収奪」のシステムを暴き出すことで資本主義の問題点を指摘する重厚な本。とても重い内容である。

9.メグ・レタ・ジョーンズ『Ctrl+Z 忘れられる権利』

 EUでは法制度となっている忘れられる権利について各国の状況及び学説を詳細に検討して議論する、この論点については必読の本。とても面白い。

10.バーナード・ゴットフリード『アントンが飛ばした鳩』

 ホロコーストを経験した著者による戦慄の30章。とりわけ悲惨さや苦しみを訴えるわけではないが、その淡々とした記述が心をえぐってくる。戦慄した。