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広田修の書評とエッセイ

上田岳弘『最愛の』

 上田岳弘にしては珍しいメロドラマだが、メロドラマという小説の枠組みを使って上田なりの実験をしているように思える。上田は決してメロドラマ自体を書きたかったのではなく、メロドラマという枠組みの中で自分の理論構築力やプロット構想力をどのようにして生かせるか試してみたのだと思う。結果として、本作はお涙頂戴の恋愛小説として成功している。

 上田は今後も、既存の小説のテンプレートを用いて、そこに自らの素質をどう生かしていくか試すのではないだろうか。既存の小説のテンプレートを利用しながら、彼自身の特異な理論世界の構築を行い、結果としてそのテンプレートとして成功してしまう。そんな展開が予想される。