albatros blog

広田修の書評とエッセイ

アリ・スミス『両方になる』

 なんというか、二項対立的な認識だったり図式的な認識だったり、そういうものを絶えず突き崩しながら常に新しいものを作り出していこうという感じのエキサイティングな本。男女、現在と過去、詩と散文、肯定と否定、聖と俗など、たくさんの二項対立を脱構築しながら、それぞれが相互に入り組んでいるものとして別の方角を指示している。混沌とした文体からも、旧来の型にはまらない新しい文学の創造を志向しているさまが見て取れる。

 読んでいて非常に楽しい本であった。文体に工夫がみられ、その文体の魅力を楽しむと同時に、そこで語られている内容にも工夫がみられ、様々な固定観念を崩していく破壊の快楽を同時に味わうことができた。たぶん、この小説から感じるべきなのは破壊の快楽なのだ。破壊の後に訪れる混沌の快楽でもあろう。とにかく意味の分からないものは面白い。そのようにして意味を脱構築していくところで生まれる文章の美というもの。そういうものを追求しているのかもしれない。