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広田修の書評とエッセイ

アリ・スミス『春』

 イギリスのEU離脱をめぐる4部作の一冊目。本作では文学と政治が混交している。文学でありながら同時に政治であり、政治でありながら同時に文学であるのだ。文学の原理であるストーリーや感情や修辞と政治の原理である社会や権力が混然と交じり合っているのである。

 一番象徴的なのが、政治的な分断をあおるような差別的な言説をそのまま小説の中に取り込んでいるところであろう。この感情の次元における政治的意識の発露、例えば少数者への攻撃や侮辱などにおいて、政治と文学は最も近接する。文学は感情を扱うことが多いが、政治的感情をもろに扱うことで、本作は文学と政治の混交を如実に示している。

 飛躍が多くユーモアがある独特の文体で、EU離脱という混沌をそのまま文学作品として切り取ってくるということ。アリ・スミスはそれに見事に成功しているのではないだろうか。四部作の残りを読むのも楽しみになってくる。それだけの充実した読書体験だった。