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広田修の書評とエッセイ

村田沙耶香『タダイマトビラ』

 家族として愛されているということが人間の条件をなすのではないかと思わされる作品。主人公は、正常な愛情が成立していない家庭で育っている。母親からも父親からも十分愛されず、弟との関係もよくない。そんな中、家族を作る欲求に従って彼氏を作って結婚を望むがそれも破綻する。挙句の果てにもはや人間全体から疎外されてしまう。

 愛情の流通から疎外されてしまうということ。これは交換関係から疎外されるということであり、人間の基本的な条件が崩れてしまう。人間は交換関係に基づいて生きており、愛情もその例外ではない。むしろ、愛情の交換関係こそが人間の根本的な欲求を満たすのである。この交換関係から疎外されるということは人間そのものから疎外されることだ。そんなことを思わされる作品だ。