albatros blog

広田修の書評とエッセイ

マンディアルグ『オートバイ』

 

  本書は19歳の若いヒロインがオートバイに乗って不倫の恋人に会いに行く、そういう筋書きである。オートバイに乗っているときの周囲の状況やオートバイの感覚などが微細に描写されており、まったくの「オートバイ小説」になっている。だが、このオートバイというものはもう一つの人生や恋愛の隠喩であって、オートバイに乗って走ることは退屈な夫との生活とは別の人生を生きることであり、また恋に向かって突き走ることでもあるだろう。

 オートバイに乗る描写から回想シーンや幻想に飛んだり、なかなかプロットは手が込んでいる。それよりもマンディアルグの類まれなる描写力が光る小説だ。オートバイから見た風景が愉悦を持って描かれている。このように活き活きとした描写も珍しい。最後の薔薇のくだりはマンディアルグの趣味として片付けてしまっていいものかどうか迷うが、マンディアルグの呪術的世界はこの現代の舞台にも何らかの訴求力をもって現れざるを得なかったのであろう。