albatros blog

広田修の書評とエッセイ

高山羽根子『如何様』

 

如何様 (イカサマ)

如何様 (イカサマ)

 

  戦争から復員してきた画家は見た目が全くの別人だった。だが、画家としての腕は以前と変わらないし、彼自身にしかできないような技量を発揮する。主人公はこの謎について解明することを依頼される。すると、戦争中、画家は偽造の仕事をしていて変装もよく行っていたことがわかる。だが、だからといって謎が全て解けたわけではない。復員した画家が本人と同一人物かどうかは謎のまま小説は終わる。

 あえてきれいに筋を通さないところが今どきの小説だと思った。この小説のように、日常生活には筋がきちんと通らない事象がたくさんある。とにかく出来事が起こったが、その原因などがはっきりしないままその出来事はいつの間にか忘れ去られる。きちんとしたストーリーを形成する出来事は意外と少ないのかもしれない。要するに、人生というものは様々なストーリーのグラデーションでできている。筋が通りきちんとしたストーリーを形成するものから、まったくストーリーが形成されないものまであらゆるグラデーションで事象は生起する。そのようなことを暗示している小説のように読めた。