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広田修の書評とエッセイ

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

 

推し、燃ゆ

推し、燃ゆ

 

  圧倒的に現代的な作品である。主人公はデジタル・ネイティブ世代、SNSなどの情報技術に生まれながら接している。そして主人公は特定のアイドルの熱心なオタクであり、発達障害である。ここには、最近の新聞をにぎわせているような社会的な事象が、一人の主人公の生活の中に表現されている。現代社会で起きていることを一個人に射影するとこのような小説が出来上がる。まさに同時代的な小説だ。

 情報技術や「推し」は、主人公の生活の中心であるだけでなく、主人公のものの見方や感じ方であり、主人公の存在自体をも規定している。これが本小説の暴く現代人の真相である。もはや我々は情報技術的な存在として生きている。そしてオタクだけでなく何らかの熱心な趣味などがある人はその趣味に存在自体規定されているのだ。この実存レベルでの現代性の侵入を描いたところにこの小説の真価はあると言える。なかなか衝撃的だった。