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広田修の書評とエッセイ

ジョージ・オーウェル『動物農場』

 

動物農場: おとぎばなし (岩波文庫)

動物農場: おとぎばなし (岩波文庫)

 

 スターリン独裁体制を批判した小説。政治の世界でいかにおぞましいことが行われようと、それが新聞の言葉で語られるといまいち実感がわかない。だがそれが小説の言葉で身近に起こっているかのように語られると、その悪辣さがよく伝わってくる。 小説の世界には具体的な感情や言葉や状況があり、それを臨場感たっぷりに演出することができるのだ。

 はじめは動物を人間から解放するための反乱だったのが、いつの間にか豚や犬といった特定の動物たちが他の動物を支配し搾取する体制に変わっていってしまう。その過程には詭弁や権謀術数、粛清などおぞましいことがたくさん行われる。これはソ連で実際に起こった出来事を戯画化したものであり、それを生々しい感覚を持って伝えてくるのが本小説である。文学の政治的な利用として、文学の臨場感を政治的不正を実感させるために利用するという方法がとられている。