albatros blog

広田修の書評とエッセイ

李琴峰『彼岸花が咲く島』

 

 記憶を失った少女がある島にたどり着くところから物語は始まる。島では独特の言語体系があり、政治の体制も独特だった。やがてそのような言語体系や政治体制が生まれた歴史的背景が明らかになり、謎はすべて明かされる。

 政治的な歴史がここまで生活を規定するということを描いた小説は近年少なかったように思われる。歴史による生活規定性を、舞台を小さくしSF調で描くことで可能にしている。我々の現代の生活もまた、政治的な歴史に規定されているのだ。

 また、この作品は現代日本の政治への批判的な視座をも含んでいる。男が中心で女性の参加が乏しい日本の政治。外国人の包摂をきちんとやらない日本の政治。もちろんこれらは改善の機運のもとにはあるが、依然その構造は残っていると言わざるを得ない。

 様々な問題を含む射程の広い作品である。芥川賞受賞は必然のことだったと思う。読んでよかったと思える作品だ。