albatros blog

広田修の書評とエッセイ

綿矢りさ『生のみ生のままで』

 

 

 女性同士の恋愛を純文学として描いた本。愛は階級を超え、人種を超え、性別も超えようとしている。昨今のLGBTの議論とは全く違う次元から、人間同士の自然な愛の姿として女性同士の恋愛を描いている。

 そもそも人間は本能として同性も愛することができるのだと思う。だが、それは社会的規範によって禁止されているに過ぎない。本作は女性同士の恋愛を、単純な人間同士の恋愛として細やかに描いている。そこに思想や議論や主義などはなく、政治性を一切帯びない形であくまで人間の問題として恋愛を描いているに過ぎない。

 人を好きになるとはどういうことか、改めて問い直してくる本である。恋愛が発生するためには必ずしも相手が異性である必要はない。そのような理屈も存在せず、恋愛は発生してしまうのである。非常に大きな問題系に絡んでくる射程の広い作品だと思う。綿矢りさの力量は恐ろしい。