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広田修の書評とエッセイ

ジュリー・オオツカ『屋根裏の仏さま』

 

屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)

屋根裏の仏さま (新潮クレスト・ブックス)

 

  今から100年前、戦前に「写真花嫁」としてアメリカへ渡った日本人女性たちの受難の書。彼女たちは、アメリカで夫に嫁ぐつもりで夫の写真を持って海を渡ったが、実際にアメリカに行くと結婚はできず、ただ農園の厳しい農作業に従事させられるだけだった。そして戦期には敵国民として収容されて行ってしまう。

 この小説に特異なのは主語を「私たち」と共同主観にしているところである。写真花嫁の一人に起こった出来事も「私たち」を主語として語られる。それがこの本を歴史書とは区別していて、あくまで共同主観が語るところの文学作品としている。「私たち」は運命共同体であると同時に、同じ境遇にある女性全員であり、そこには当事者性が宿っている。著者は自らをもその「私たち」の中に含めていたのかもしれない。

 数多くの資料を参照しながら書かれたこの書物は驚くほど当時の日本女性の習慣などを再現している。その意味でも労作であるが、何よりそこに悲劇の当事者性を設定して我々に当事者の側から悲劇を突き付けてくるところに優れた点があると思う。