albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ゴットヘルフ『黒い蜘蛛』

 

  19世紀に書かれた小説なので、いわゆる「古典」といった部類かと思ったらかなりエンタメ要素の強いホラー小説である。領主の無茶な要求に困り果てた村人が悪魔と契約し、契約を履行しないことから死をもたらす黒い蜘蛛が人々を殺戮する。この黒い蜘蛛の恐怖がすさまじい。

 この小説はスイスに伝わる民話をベースにしているらしく、おそらくペストの流行を物語っている。それにしても、悪魔の描写であるとか、悪魔と契約を交わした女の苦痛の描写、黒い蜘蛛の描写などが活き活きとしており、読者の恐怖を掻き立てるのが非常にうまい。ゴットヘルフは多作な作家だったらしいので、日頃の著作活動がこのような描写の強度を可能にしたのだろう。初めは退屈だが、おじいさんの昔話が始まってからは一気に読めてしまうくらいの劇的な展開が待っている。「ホラーの古典」とでもいうべきか。純文学が苦手な人にでもお勧めできる小説である。