albatros blog

広田修の書評とエッセイ

藤野可織『来世の記憶』

 

 芥川賞作家の短編集。奇想とでもいうべきプロットを展開し、想像力・妄想力を自由自在に展開する。割とグロテスクなものもあり、藤野の好みというかそういうものが見えてくるような気がする。ライトなSF調のものが多く、たぶんそのぐらいのあたりが一番自由に想像力を発揮できるのだろう。この手のものでは最近村田沙耶香が得意であるが、村田ほどクレイジーではなく、一種の常識性というか落ち着きが感じられる。

 小さい物語の連続なので、思いついたもののスケッチの連続という感じもする。これをもとに長編へと発展していく可能性もあるのではないだろうか。小説のアイディアの宝庫であり、これだけのものを思いつくところに藤野の才能を感じる。ファンタジーでもSFでもなく、あくまで純文学としてライトSFを書くという傾向は割と最近強いように感じる。最後まで飽きることなく読ませる、十分な小説としての質の高さを維持していたように思う。