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広田修の書評とエッセイ

ウィルキー・コリンズ『夢の女・恐怖のベッド』

 

夢の女・恐怖のベッド―他六篇 (岩波文庫)

夢の女・恐怖のベッド―他六篇 (岩波文庫)

 

  何らかの事件や謎が提示され、その真相が鮮やかに明かされていくという展開が主である。19世紀にはすでにこのようなミステリーが書かれていた。ミステリーというのは社会派の小説なのだな、と思わされた。というのも、そこには社会的に注目される事件が数多く出てくるからだ。個人に衝撃を与えるような出来事だが、個人だけでなく多くの人もまた衝撃を受けるような出来事であるから、社会的関心事となるような出来事に満ちている。

 社会的できな臭いがゆえにスリルがある。ミステリーは作品のスリルを生み出すにあたって社会的なきな臭さ、事件の重大さを十分に活用している。だからそこには警察が出てくるし、裁判所も出てくる。割と面白いと感じたのは、罪を犯した人がその後どのような刑に処せられたかまで書いている点である。現代のミステリーでは省略されるようなこの手の記述が、実はミステリーの社会性を端的に示しているのではないか。