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広田修の書評とエッセイ

レッシング『賢人ナータン』

 

賢人ナータン (岩波文庫 赤 404-2)

賢人ナータン (岩波文庫 赤 404-2)

 

  宗教的寛容を唱えた古典的名作。ユダヤ人の豪商ナータン、イスラム教のスルタン、キリスト教の総大司教などが登場し、ユダヤ教イスラム教とキリスト教の間の葛藤が展開される中、ナータンは三つの宗教を真偽の区別がつかない三つの王位継承の指輪に譬えることで、三つの宗教の融合帰一を唱える。

 18世紀に書かれた古典であるが、古典ならではの良い意味での予定調和があり、また一つ一つの言葉が考え抜かれていて無駄がなく、読んでいてとても滋養になる作品である。三つの指輪の比喩も見事で、読んでいながら確かにナータンは「賢人」と呼ぶにふさわしいと思ってしまう。単純に文学の中に閉じこもってしまうのではなく、宗教の問題というアクチュアルな問題に取り組み、一定の結論を出そうとする姿勢にはとても共感する。そもそも文学は閉鎖的な牙城ではなく、このように社会に開かれたものであるはずなのだ。