albatros blog

広田修の書評とエッセイ

アグアルーザ『過去を売る男』

 長年にわたる内戦が終わり、アンゴラでは新たな富裕層が生まれた。だが彼らには由緒正しい家計がなかった。富裕層の客に対して由緒正しい家計を偽造する仕事をする男の家に住み着いたヤモリが主人公の物語だ。とにかく、アラベスクのように複雑かつ突起状のエピソードが断片的に積み重ねられ、しかもそれぞれの登場人物が謎に満ちていて、すごく読んでいて刺激される。

 アンゴラという国の特殊性もあるが、それ以上にアグアルーザの語り手としての技巧が光る一冊だ。これだけ複雑かつ綿密に計算された巧妙な作品はそうそうお目にかかれない。これを一冊読んだだけで、アンゴラの複雑な歴史的状況がわかるとともに、そもそも人間一人一人が抱え込む謎の問題にも思いをはせることができる。