albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ヨン・フォッセ『だれか、来る』

 読後の衝撃が強かった。ただ家を買ってそこに住み始め、そこにその家の昔の持ち主の家族が来るというだけのストーリーなのだけれど、プロットの巧みさゆえに、とんでもない不穏さが醸し出されている。恋人同士が二人だけの家を手に入れたけれど、女の「だれか、来る」という不安が強調され、実際に人が来ることで、今度は男の猜疑心が異様に強調される。人が一人訪問するということが、これだけの大事件に仕立て上げられてしまうプロットの妙には脱帽する。とにかくすごいものを読んでしまった。

 単純なつくりでありながら、人間や恋愛の根源に鋭く迫っていく傑作である。これこそが戯曲の本懐なのかもしれない。