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広田修の書評とエッセイ

ロジェ・グルニエ『長い物語のためのいくつかの短いお話』

 徹頭徹尾、読者へのサービス精神に満ちた作品群だ。しかもこれが著者の最晩年に書かれたということに驚嘆する。グルニエは最後まで読者のために小説を書いた。これはある意味驚くべきことである。小説家はいったい小説をだれのために書いているのだろうか。ある意味誰のためということを意図せずに書いているというのが正解だろうが、その宙に浮いた意図とは無関係に、作品は実際に著者のためになったり読者のためになったりする。

 グルニエは読者を楽しませるユーモアに満ちた作品群をこの本に集めている。そのユーモアによって楽しんだ読者の楽しみを想像することで著者自身も楽しむ。著者の創作行為に対しては読者の喜びが反射してきて、それにより著者自身も喜ぶという幸福な構図がここには存在する。とにかく笑った。