albatros blog

広田修の書評とエッセイ

伊藤たかみ『はやく老人になりたいと彼女はいう』

 登場人物それぞれの観点から織りなされる熱気を感じさせる物語。この小説は人間関係や人生の密度が高いと感じる。そこから感じられる息苦しさは、まさに人間が生きることの息苦しさであろう。若いと恋愛をするからはやく老人になってしまいたい、そういう母親のセリフには、まさに人生の熱や重さに倦んでいるという私たちのある一面が投影されている。人生は熱く重い。そうであることが楽しくもあるが、またそうであることが鬱陶しい。この熱くて重い人生をそのまま描き切るということ。伊藤はそのような作品を書いたのではないだろうか。

 それほど特異なプロットや特徴のある作品ではないが、文体の強みが人生の熱を含んでいてなかなか読ませる作品だった。生きることは鬱陶しい。確かにそうだが、そのことについてしっかり気づくこともなくせわしなく日々を生きている。ふと息抜きをしたくなる。そういう、自らの人生への反省を促すような作品でもあると思う。