albatros blog

広田修の書評とエッセイ

岩佐なを『たんぽぽ』

 ユーモアとウィットを巧みに利かせた異空間の詩集。これほど上品に、かつこれほど軽快に、ユーモアとウィットを自然体で活用できる詩人は少ないと思う。ちょっとしたおかしみ、ちょっとした気の利いた工夫、そういうものが高級酒のような上品な味わいをもって読者を酔わせる。

 描かれる世界も、どこか生活的でありながら、どこか夢幻的であり、この宙に浮いたような独特の虚構世界もまたユーモアとウィットを機能させるのに適切である。だが、ここには実は大きな深淵があるかのような、そんな気配も感じさせる。とにかく熟達の一冊である。

 いろんな意味でバランスがとれていて、ユーモアもほどほどに、ウィットもほどほどに、虚構もほどほどに、という具合であり、その辺の詩作のバランス感覚にも、ベテランの筆さばきが感じられる。とても勉強にさせていただいた。こういう詩も書いてみたいし、こういう詩をもっと読みたいと感じさせられる一冊だった。