albatros blog

広田修の書評とエッセイ

小川三郎『忘れられるためのメソッド』

 本詩集は、詩人の心の動きを丁寧に追いながら、通常の感慨の中に通常でない鋭いひらめきを持ち込んでいる。詩行の運びは緩慢なようでありながら、急に速度を増し、緩慢な中に激しさを持ち込んでいる。そういったひねりに富んだ詩集なので、とても味わい深く、この詩集は「忘れられるためのメソッド」というより「忘れられないためのメソッド」で満ちているようだ。

 小川は初期の詩集ではこの鋭さが目立っていたが、近年の詩集ではどんどん肩の力が抜けていっているのを感じる。だがそういった良い意味での脱力の中にも必ず鋭さがあり、何が詩を成立させるかという肝となる点を抑えるのがますます巧みになっているのを感じる。詩というものが何であるかということについての小川の直感はどんどん研ぎ澄まされていっているのではないだろうか。