albatros blog

広田修の書評とエッセイ

燃え殻『これはただの夏』

 

  人生が現在最悪な人、あるいは人生がかつて最悪だった人へと捧げる哀歌のような作品。主人公と風俗嬢のユカは、生きることに虚無感を抱き、周りともうまくなじめず自己肯定感が低く、最悪な日々を送っている。それに対して10代の明菜や主人公の仕事仲間の大関は、自己肯定感が高くウェルビーイングな生活をしている。

 人生が空虚な時代、すべてにおいて未熟ですべてにおいて不器用で何もかもがうまくいかない時代、それを人は青春と呼ぶのだと思う。青春をずっと引きずっている大人たちへのエレジーがこの作品なんだろうと思う。誰もが心の隙間を持っている。誰もがかつて傷ついたり絶望したりした過去がある。そういう青春への哀歌としてこの作品は機能しており、それゆえの叙情性を持っている。

 文体としては余分な装飾がなく簡潔であり、読みやすくスラスラ読めてしまう。読後感も悪くなく、良い意味でのもの悲しさが残る作品だ。読んでよかったと思う。