これは真に注目に値する詩集だと思う。言葉ひとつひとつに思索の漂う香りがまとっている。一行一行にこれといって難解な展開はないが、その一行一行の運び方が非常に練られている。だが、だからといって「凝っている」わけではない。荒川の熟練がこの詩行の優れた運びを生み出しているのだ。社会や現実に対する当事者意識のようなものはあまり感じられないが、社会や現実に迫っていこう、それを内包していこうという方向性が見て取れる。
この余裕を見せながら正確に運ばれていく詩編の数々は、荒川の長年の詩的達成の末に獲得されたものなのだろう。私はここに詩の成熟の一つの形を見ることができると思う。つまり、若いころの先鋭的な詩群を超克したうえでの言葉への配慮の深まり、現実認識や人生経験の深まり、これこそが詩の成熟というものだと思う。どの詩にも深さが感じられ、それは荒川の日々の生活の深まりとも対応しているように思える。