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広田修の書評とエッセイ

瀬尾まいこ『図書館の神様』

 

図書館の神様 (ちくま文庫)

図書館の神様 (ちくま文庫)

 

  新米教師の出会いと別れなどの陰影に富んだ一年を描いたすがすがしい小説。人生には光の部分と影の部分がある。そして、光でも影でもないあいまいな部分も圧倒的に多い。さらに、光が影に転じたり、影が光に転じたり、なかなか複雑に人生というものは出来上がっている。

 出会いというものは光かもしれない。ヒロインが不倫相手と出会って愛に満ちた生活を送っていた時間は光なのかもしれない。だがそれはいずれ破綻し、別れが訪れ人生の闇に転じる。不倫というものはそういう光と闇を両方背負っているものなのだ。また、文芸部との出会いも初めから闇をはらんでいる。文芸部は常に廃部の危機に瀕しているし、文芸部長の言動はヒロインのアイデンティティを揺さぶる。また、ヒロインがかつて後輩を自殺に追い込んだという傷は初めは闇であるが最後に許しが訪れ光となる。

 このように、この小説は人生の陰影を丁寧に描いていて、その微妙な起伏が人を引き付ける力を持っている。何の結論も回答も与えてはくれないけれど、ただ過程としての人生がここには確かに存在し、それがさわやかである。