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広田修の書評とエッセイ

閻連科『四書』

 知識人たちを強制労働させたり、農業や産業の大躍進政策を進めたりした中国のある神話的時期のお話。ここに描かれているのは、迫害を受けながらもあくまで大地とともに生きる更生区の人々の生々しい体験であるが、その体験を通じて、そのような体験を生み出した社会制度へとまなざしている。ある意味、このような苦しい状況に追いやられているということをつぶさに描くことが体制へのプロテストになっていると言えよう。そして、体制に都合の悪い人間に強制労働させることがどれほど残酷で非人道的であるか、それをこの書物を一種の神話とすることで批判している。このような体制により作られた体験は、想像の産物や、ありえない戯画化がよく出てくる神話と同じような非現実的で滑稽な話であって、それゆえ厳しい批判に値するということをこの作品は訴えているのである。ものすごく緻密に構成され、多方面に目配りがされている充実した完成度の高い作品である。「現代の古典」の名に値するのではないか。