albatros blog

広田修の書評とエッセイ

市川沙央『ハンチバック』

 文学の正しい政治的利用だと思う。もちろん文学作品としての完成度も高いわけだが、その文学作品としての完成度の高さを媒体として、重度障碍者の置かれている現状を社会問題として提示している。韓国などでフェミニズム文学が盛んなように、文学を通じて社会を変えていこうという意気込みを感じる作品である。社会を変えるとまではいかないまでも、障碍者の現実をもっとよく知ってほしい、自分たちの苦しみをもっと広く知ってほしい、そういう作品だと思う。

 障碍者文学、というものはこのようにして始まるのだろうな、と思った。いよいよそういう時代になってきた。マイノリティがどんどん声を上げて多様性を増している現代社会において、障碍者たちも声を上げていく。そのきっかけを開いていく重要な作品だと思う。障碍者文学、が一ジャンルを形成するくらい、他の様々な障がいをお持ちの方に文学作品を書いていただきたいと思う。