堀江敏幸のエッセイは初めて読んだが、かなり快楽に満ちた極上のエッセイである。堀江がいかに知性と感性に満ち、教養にあふれる知識人であるかがわかる。日常風景の詩的一面を切り取ってきたり、文学のエピソードを示してみたり、知性が打ち出すものを完成が受け止め、その土台として膨大な教養がある、そんな印象を与えるエッセイ群である。
文章としての完成度も高く、自然に流れだすようでありながら緻密であり、細部に工夫を凝らしていることもわかる。いわゆる名文に近い。文体的な訓練もおのずとなされているのであろう。
とにかく、エッセイを読むことの愉楽を存分に与えてくれる作品である。エッセイというジャンルにおいてこれほどの達成度を見せてくれた作家を私は知らない。エッセイの一つの達成点として、一つの模範として、日本の文学のシーンでは生き続けていくであろう。堀江はほかにも何冊かエッセイ集を出しているようなのでぜひとも読んでみたいと思った。