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広田修の書評とエッセイ

キプリング『プークが丘の妖精パック』

 

 イギリスのノーベル文学賞作家であるキプリングの冒険譚。イングランドの歴史をさかのぼり、過去の英雄を呼び出してその冒険について語らせる。英雄たちが活躍していた時代は剣や大砲で戦っていた時代。勇敢さが何よりの美徳とされていた時代だ。現代のように知性が最大の重要性を持ち、テクノクラートが権力を握っていた時代とは異なる時代の冒険が活写される。そこでは強靭な肉体と恐れのない勇気が何よりも重視された。

 一つの土地をめぐって、連綿とした歴史を呼び出してきて、その歴史の中に自らを位置づけなおす。過去は現在とは異なる価値観や環境で支配されていた。その時代の異質性に懐古趣味やエキゾチズムが刺激される。異なる世界観が支配する時代が当然のように立ち現れると、そこにはある種の戦慄を感じる。そしてその時代の中で冒険が繰り広げられるのである。失われた時代がよみがえることに対する感慨が感じられる。