燃え殻氏の雑誌連載エッセイ集第二弾である。著者は、基本的に「負け」の姿勢を貫いている。この世の中では傷つける側ではなくいつでも傷つく側人間である。そして、他人が傷つくことにも敏感で、他人と傷を共有する共感の姿勢がみられる。理不尽な仕打ちを受けている人を街で見かけてはそれをエッセイで書かないではいられない。彼もともに傷ついているからである。彼は傷ついても復讐しようなんて決して思わないし、夜のベンチに座って缶ビールを飲みながら街を眺めてため息をつくだけだ。
この敗北の立場から描かれた人生の様々な出来事は、ペーソスとユーモアに満ちていて、とても心をえぐる力がある。我々もまた人生のどこかで敗北している。その敗北にそっと寄り添う、しかしベタベタしない距離感がある。このように受動的であることが、彼の感受性の基礎を形成しているのだろう。能動的であるよりは受動的である方が世の中のことをより多く感受することができる。著者の感受性の基礎となっているのは、敗北を起点とする優れた受動性なのであり、そのどうしようもない無力感によって貫かれた本書は、それゆえの独特の説得力を持っている。