若者にありがちな心理と行動を描いた作品。主人公は大学生、刹那的・感覚的で深い思慮を持っていない。なんとなく安定といわれる公務員を志望し、なんとなく恋人と別れ新しい恋人と付き合う。作品中に登場する主人公の思想も、人生経験の少なさに由来する独特の浅くて単純な断言ばかりだ。若いということはこういうことなのだな、と自ら若かったころを思い返したりする。
特に特徴的な傾向のある作品ではなく、ただ無難に若者の生態を描いているな、といった具合である。最近の芥川賞の傾向からすると、こういう作品は選ばれにくいと思うのだが、無事受賞となった。私のように中年になると、昔通過した若かった時期を平凡に描かれても特に得るものがないので、この作品を読んでもあまり得るところがなくて残念だった。ただ、若者には共感されるのかもしれないし、若い世代には支持されるのかもしれない。いずれにせよ、人生の一時期を無難に描いた作品である。