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広田修の書評とエッセイ

綿矢りさ『しょうがの味は熱い』

 

しょうがの味は熱い (文春文庫)

しょうがの味は熱い (文春文庫)

 

  同棲して三年たつカップルがなかなか結婚に踏み切れずいたところ、ようやく結婚に至るというお話。だが、結婚よりもカップルが二人で暮らすことに関する心理的ディテールの描きこみが素晴らしいと思う。二人で暮らすということを男女両方の視点から丁寧に描きこみ、それがこの作品の価値を生み出している。この作品はダイナミックでは なくスタティックであり、行動的ではなく観照的である。

 恋人同士が互いに生活を分かち合いながら、互いのことを非常によく感じ取っていることが伝わってくる。この作品のテーマは「二人で暮らすということ」であり、うっとうしい他者の存在をそれでもいとおしく受け止める二人のあり方が改めてとても新鮮である。途中女のほうが実家に帰ったりとかいろいろあるが、基本は二人暮らしについて心理的ディテールを描きこんだ新鮮な静的作品というのが正しい受け止め方だと思う。