お月さまが昔やってきた宇宙飛行士を探して、小さな黄色いボールとなって地球を旅する話。お月さまは宇宙飛行士に再会し、宇宙へ帰っていく。この絵本で斬新なのは、月が地球に親しみやすい姿でやってくるところだ。子どもにとって親しみやすい対象は何よりも身近にいて触れられる存在である。お月さまは遠くにありすぎて親しみを感じづらい存在である。そのお月さまを子供の親密圏へと向かわせるということ。この絵本を読んだ子供は、お月さまが人間らしく語るということと、お月さまが自分の親密圏に入ってくることでお月さまへの親しみを強くするはずだ。
青山七恵は芥川賞作家であるが、絵本においてもこのようなものを書いているとは知らなかった。また、絵本の色調は青や黒を基調としており、神秘的で謎めいた雰囲気を終始醸し出している。それでいながら描かれる対象は親しみやすい。月という存在を遠くにあるものとしてではなく身近で親しいものとしてとらえ直すということを子供に促す良い作品だと思う。