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広田修の書評とエッセイ

柳美里『JR上野駅公園口』

 

JR上野駅公園口 (河出文庫)

JR上野駅公園口 (河出文庫)

 

  本書の主人公は、息子に先立たれ妻にも先立たれ、親類に負担をかけるのを嫌ってホームレスになる。大筋を言ってしまえばそれまでだが、その大筋の細部を埋めるディテールの書き込みが素晴らしい。綿密な取材に基づく故郷の南相馬市の風物やホームレスの生活のリアリティは素晴らしい。また、脈絡もなく挿入される行きかう人々の会話も面白い。

 本書のストーリーは誰の人生にでも接続しうるという意味で普遍性がある。ホームレス問題や孤独死の問題が取り上げられるようになって久しいが、それは決して誰の人生とも無関係ではないのである。主人公のように係累を失ってホームレスに転落することは誰の身にも起こりうることである。その意味でたとえば私の人生だって本書のストーリーに接続しうる。この接続可能性と、その接続した先の人生の悲惨さが本書の強力な文学的強度となっている。この物語は決して無関係な他者の物語ではない。それは我々の物語であり、私の物語でもあるのだ。