震災文学にはどのような機能があるのだろう。私は、震災文学は震災や原発事故の事実を人々の記憶として保存して、その衝撃を保存すると同時にあの震災は何だったのかという問いをも保存するものだと思っている。その点、本作において具体的に語られる震災体験、激しい悲しみなどは震災を保存すると同時にではあれは何だったのかと私たちに答えを迫ってくる。
本書に併録された「静物画2018」では、震災の記憶を持つ少年少女の傷ついた心が何気なく暗示されている。「町の形見」ほど直接的ではないが、このようにあとあとまで少年少女の心に傷跡を作るさまが描かれるのを読むのはつらい。こちらはまた別の角度から震災について問いを発していて、その傷、時間がたっても残る衝撃について問いを発していると言えよう。
いずれにせよ、文学的完成度が高いから震災文学としての機能を果たせるわけであり、その点柳美里は一流である。作品自体が十分楽しめるものであるからこそ私たちは問いへと導かれるのだ。