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広田修の書評とエッセイ

燃え殻『すべて忘れてしまうから』

 

すべて忘れてしまうから

すべて忘れてしまうから

 

  エッセイ集。すべて忘れてしまうから、忘れないうちに書き留めておこうという姿勢では書かれていない。むしろ、すべて忘れてしまっても別に構わない、それでも物語りたい欲動に突き動かされて書く、そういう姿勢で描かれた人生の断片集である。この「物語りたい欲動」は、著者がツイッターでつぶやいたり小説を書いたりするところに顕著に見えてくるのだが、それはおそらく著者の孤独に由来するのである。著者は物語の共有など原理的にはできないことを熟知している。だが、それでも物語の共有を求めて物語ってしまう、何故なら著者は孤独だから。

 内容的には、割としみじみとしたものや物悲しいものが多い。たぶん著者は世界中の悲しみを受け入れる器のようなものであり、その悲しみに耐えることが祈りのようなものになっている。悲しみは何度起こっても構わない、なぜならすべて忘れてしまうから。