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広田修の書評とエッセイ

町屋良平『1R1分34秒』

 

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

第160回芥川賞受賞 1R1分34秒

 

  年若いプロボクサーの奮闘記。ボクシングというと体を動かす要素が大きいため、ここまで文字にする要素があったんだ、と驚く。だが、ボクシングといえども人間関係の中で制度にのっとって行われるわけであり、そうすると人との交わりであるとかより良いボクシングの追求とかに伴って様々な言葉が繰り出てくる。それだけではなく、ボクシングとはそれほど関係がない人とのやり取りや、ボクサーの内面から自然にあふれ出てくるものなど、予想以上に言葉数は多かった。

 身体を動かす外面だけのスポーツと思いきや、そこに大量の言葉を持ち込んでくるあたり、町屋良平の面目躍如というところだろう。これを一個の小説に仕立て上げる技術がすごい。実際、ボクサーたちの内面はこのように複雑で様々な思いに満ちているのかもしれない。非常に楽しめた。