詩は言語による美的構成体である。もちろん「美的構成体」といってもその定義は様々になされるであろうが、少なくとも詩は機能的な言葉ではないし、情報伝達の言葉でもない。言葉の持つより豊饒な側面、遊びの側面、実験の側面を味わうというのが詩を楽しむポイントである。
田野倉康一の詩からは、彼独特の美的感覚が伝わってくる。詩が伝えるものは意味でなくていい。詩が伝えるものは一定の感覚で構わないのである。本詩集を読むと、田野倉の知的でしっとりとした、幾分ノスタルジックな感覚が伝わってくる。もちろん、詩は思想を伝えてもいるし、コンセプトを伝えてもいる。田野倉の詩からは歴史に関する一定の思想、また歴史を新たに繰り出していこうとするコンセプトが伝わってくる。
都市、歴史、イメージ、そういったものをめぐる多彩な詩群であるが、安定した筆遣いで丁寧に書き込まれた美しい作品集である。大変楽しめる詩集だった。