albatros blog

広田修の書評とエッセイ

いもとようこ『かぜのでんわ』

 

かぜのでんわ

かぜのでんわ

 

  丘の上に据えられた電話は、もう会えなくなった人へ話しかけるとそれがその人に届くと言われている。家族を亡くした動物たちが続々電話を掛けに来る。そしてあるとき急に電話が鳴りだしたと思ったら、電話からはたくさんの星が飛び出し、動物たちの思いは届いたのだった。

 震災前に構想された作品とのことだが、東日本大震災で家族を失った人たちの姿が重ね合わされる作品である。そして、この作品はそういう家族を失った人の心を救う物語だ。電話はいわばカウンセラーの役割を果たしており、心に傷を負った人たちの気持ちをひたすら受け入れる。そしてそれが本当に会えなくなった人に届いたとすることによる大きな救いがある。いもと氏の柔らかいタッチの絵柄がこの優しい絵本にとてもぴったりしている。ただ、子どもがこの絵本の真意を理解するのはなかなか難しいと思う。家族を亡くしたことのある子どもは少ないはずだからだ。それでも震災の一面を子供たちに伝える意義ある絵本である。