albatros blog

広田修の書評とエッセイ

大川悦生・渡辺三郎『三ねんねたろう』

 

  いくら働いても暮しが楽にならないねたろうは、苦しみあぐねて眠り続けてしまう。寝ているねたろうのことをいろんな人がからかう。だが、目覚めたねたろうは農地を豊かにする方法を思いつき、暮らし向きをよくする。

 この作品については、人とは一風違った存在が英雄的行動をする、などの解釈が見られるが、それよりもこの絵本で際立つのはねたろうが寝ているときの描写である。ねたろうが寝ている情景も異様であるし、それをはやし立てる子供たちも楽しげだ。この、理由もなく寝ていること、しかも三年も、ということの異様さが何よりも際立つし子供たちの心に残るのである。ここには物語に回収されない、むしろ物語から遊離してしまう異様な情景がある。この異様な情景は何か物質的な衝撃力で子供たちに迫るのだ。この衝撃力こそこの絵本の魅力の核心ではないのか。私も子供のころこの絵本を読んで、ストーリーは覚えていなかったがねたろうの寝ている情景だけは覚えていた。