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広田修の書評とエッセイ

ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』

 

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

  • 作者:ジュンパ ラヒリ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/09/30
  • メディア: ペーパーバック
 

  英語で小説を書き多くの賞を受賞した作者が、イタリア語に魅せられてイタリア語を勉強し、イタリア語で書いた、イタリア語で書くことに関するエッセイ集。辞書を頻繁に引いていた初心者のころから、徐々に話したり書いたりできるようになるまでを克明に描いている。また、単純にイタリア語の学習の進展について書いているのではなく、イタリア語への感情的な執着や、英語への複雑な感情、また母語であるベンガル語を交えた三角関係、そういったものに関する心の綾を繊細に描いている。

 まず、英語作家として確固たる地位を築いたうえで新しい言語に挑戦するというのがすごい。それについて反対する知人も多くいたようだ。だが、新しい言語は新しい人生を生み出す。人生を日々更新していくこと、それも言語を通じて、というのはまさに作家の本分ではないだろうか。この試み自体に戦慄を感じるが、そこで生み出されるテクストの厳密さも素晴らしい。