ラヒリは主に家族の間の関係を描いている。本作においては、インドで生まれた兄弟を軸として、弟が結婚したのち身重の妻を残してすぐに官憲に殺され、代わりに兄がその妻をめとるが、妻は子供と兄を残して旅立ってしまう、そういうストーリーを綿密に描いている。数世代にわたる大河小説であるが、その基軸にあるのは家族の情愛であり、家族に起こる出来事についての家族の動きを微細にとらえている。
だが、ラヒリの描く家族は日本の家族のようなウェットなものではない。日本の家族には「血のつながり」があり、日本の家族はどちらかというとフィジカルなつながりが重視されるが、ラヒリにおいて家族は精神的な情愛においてつながっている。また、その情愛にしても割とドライであり、日本的な湿り気は感じられない。ここに、インドと日本の家族に関する態度の違いがあるのかもしれない。