albatros blog

広田修の書評とエッセイ

ジュンパ・ラヒリ『見知らぬ場所』

 

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

見知らぬ場所 (新潮クレスト・ブックス)

 

  全体的に愛や家族についての物語を淡々と語っている印象である。登場人物のバックグラウンドは作者と重なる点が多く、作者の人生もだいぶ反映されているのだと思う。だが、ラヒリは当事者よりも傍観者といった態度を終始取り続ける。記述は透明で乾いていて、無駄がなく適切な量の描写で貫かれている。主観性を排した客観的な虚構世界が出来上がっているのである。

 ラヒリの『停電の夜に』は見事な短編集だった。だが、今作もそれに劣らず見事な出来だと思う。物語の包み込むエピソードのスケールが大きいし、その割には必要十分な記述のみで済ませ、余計な修飾や思想・感性などを排している。この作品には詩的要素が皆無であり、まさに小説的な小説を作り出しているといえる。この小説性、つまり純粋に筋やスケールで読ませるということ、を追求しているストイックさが素晴らしい。