albatros blog

広田修の書評とエッセイ

家庭と仕事

 人間は社会的動物ですから孤独には生きられないし、社会的規範にのっとって日々暮らさなければいけません。背負うものがない、負担がないということは、同時に喜びや社会的承認もないということです。現代人は大人になると仕事につき家庭を作ることが多いです。この仕事と家庭というものは、喜びや承認の源泉であると同時に負荷でもあります。人は仕事にやりがいを感じる一方で時には仕事から逃れたくもなり、家庭に癒しを感じながら時には家庭からも逃れたくなります。こういった両義性に深く巻き込まれることが社会の中で生きるということにほかなりません。しかもこの両義性は空疎なものでなく、とにかく濃密で人生を波乱の多いものにします。
 年若く、青春の情熱や絶望を語っているうちはまだまだ人生の濃度が薄いです。若い頃に巻き込まれる両義性にはそれほどの密度がありません。ところが、仕事や家庭に巻き込まれて引き裂かれる両義性は極めて濃密です。この濃密な負荷から喜びも苦しみも濃度の高いものが生まれます。それに耐えられるということが大人の条件なのでしょう。