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広田修の書評とエッセイ

ピョン・ヘヨン『モンスーン』

 

モンスーン (エクス・リブリス)

モンスーン (エクス・リブリス)

 

  ピョン・ヘヨンは非常に簡潔な文体で日常に潜むホラーや不条理を描いている。我々一人ひとり、ただ日常生活を送っているだけでいつの間にか「たいへんな」事態に巻き込まれたりしてしまう。そういった修羅場において我々は主観的に一生懸命に生きるので、自分では特にホラーや不条理などは感じない。それよりもそのような状況と取り組むことに注力するからだ。だが、そういう状況は「客観的に」描かれるとまさにホラーであり不条理である。

 ピョン・ヘヨンの小説は、そのようなフィクションの俯瞰作用、客観化作用を上手に利用しているように思う。普通だったら当人たちが主観的に一生懸命取り組み、客観化できないような状況を見事に客観化し、そこに当人たちの力の及ばないホラーを提示していく。思えば我々も人生の大変な時期を生きているとき、客観的にはホラーとしか言いようのない状況を生きているのである。そんなことに思い至らせる作品集だった。