ハン・ガンは本作において、命を失うほどの物理的暴力を被る人々を描いている。これは、人間としてはなるべく見たくない社会の深淵であり、できれば目をそむけたくなる現実だ。だが、ハン・ガンはその悲惨さを共に苦しみ、共に悲しみ、鎮魂のためにこのような作品を書いた。いわばこの作品は供養の作品であり、死んでいった人々などが安らかであることを祈っている作品である。
鎮魂としての文学、供養としての文学。だが、単なる鎮魂や苦悩ではなく、その暴力被害を生々しく描くということ。それによって、読者には少なからぬ衝撃が与えられる。読者もまた鎮魂や供養にいやおうなく巻き込まれていき、多くの人間による共苦が生じる。我々に必要なのはどこまでも遠く続いていく優しさだ。死んでいく人々が安らかであることを読者共同体が祈ることとなる。
